クリストファー・クックの作品は、 主に 表面を覆った グラファイトつまり黒鉛 の被膜を削る行為によって 、 絵画的イメージを作り出す。絵画が、一般的に絵筆によってなされる 無条件の 表現であるとすれば、方法において 根底を揺るがす注目すべきもの と言えるだろう。

グラファイトが生み出す黒と 銀 は 、モノクロの写真のイメージを想起させるが、実際に写真プリントを傍らに置いてそれを再現したわけではない。 80 年代から90年代にかけて の、 写真 をもとに制作された 一群の絵画と も 異なる様相を示している。クック の作品は、 記憶 や想像 にある映像イメージ を 再現 し、その 人間の 意識の奥深くに 刻 み込まれた イメージが制作の源泉となっている。伝統的な、すなわち絵の具と絵筆による絵画制作に 対し 、 クックの手法は革新的ですらあり、それはチ ェーンでドローイングをするトニコ・レモス・アウアッド (ブラジル)や、 糸を紡いで絵画作品を制作する 日本の 伊藤存など と共に、確実にある 一つの流れを形成している と言える。

 写真そのものが、モノとしてのプリントからデジタル化されたイメージに移行をはじめようとしている中で、絵画においても 現存のものと それに代わる様々な 手法を模索しながら、 作品に取り組もうとする姿勢が見いだせる。クック は 、まさにそうした新たな絵画の流れの 先端 に位置づけられるべき アーティストであり、彼にとっては日本での初個展となる横浜美術館における実験的な試みが、我々にそれを証明してくれるだろう。

横浜トリエンナーレ

キュレーター 天野太郎